金花糖のはじまり
江戸時代
誂織時世好 歌川豊国
弘化元年(1844)

金花糖の歴史は古く、長崎に輸入された南蛮菓子よりあと、有平糖を模して作られたのがはじまりで、輸入の砂糖を使用した高価な献上菓子として扱われました。
江戸時代後期になると、砂糖の普及とともに縁起物の慶事菓子として庶民にも広がりました。

江戸には、嘉永年間(1848〜1854)に京都から伝わり、新しい物好きの江戸っ子に持て囃され人気の流行菓子となります。

当時の様子は、歌舞伎役者の錦絵を多く描いた 歌川豊国(三世)の浮世絵にも描かれ知ることできます。

金花糖はお菓子のシーラカンス
江戸時代江戸時代の庶民の生活を記した「守貞謾稿(1853)」には『白砂糖を練りして鋳型をもって焼き、しかる後に筆・刷毛等にて彩を施し、鯉、鮒、うど、竹の子、蓮根その他種々を製す。真物のごとし。なずけて金花糖といふ』とあります。
昔も今も作り方は変わっておらず、金花糖は「お菓子のシーラカンス」と呼べるものです。

右の浮世絵は、大皿にのる赤魚が金花糖、それを欲しそうに覗きこむ赤ん坊と美人の女将さんです。

身につけている着物も”お誂え”ごとく上物の見受けられます。おそらく大店の評判の若女将を描かれたのかもしれません。

金花糖の発展と衰退
女性のお祝いに多く使われた金花糖
明治になると金花糖には「食べ物に不自由せず子孫の繁栄を願う」という意味が込められ、出産、婚礼などの人生の節目、お雛祭りなどの女性のお祝い事に多く使われるようになりました。

また、お祭りの奉納や建前などのお祝いにも欠かせない慶事菓子として広く扱われておりました。昭和に入ると、少量の砂糖で多くの甘味を楽しめる利点を生かし、駄菓子屋のくじ引きの当たりとしても扱われるようになり、より庶民に身近な菓子として愛されました。

しかし時代は流れ、多種多様な味覚が溢れる今日、砂糖の甘味だけでは菓子としての魅力に陰りがでてしまい、都内でも数件あった金花糖工場も昭和30年ごろをピークに姿を消し、今から8年前には都内で唯一残っていた錦糸町の「奈良屋」さんが廃業をすることになり、東京で作られる金花糖(江戸前金花糖)は消滅してしまいました。

女性のお祝いに多く使われた金花糖
「まんねん堂さんならいつか作ってくれるよね」
奈良屋さんが辞められると聞いた時、背筋が凍る思いがしたのを今でも覚えてます。

そして、廃業を決心した奈良屋さんから、大量の木型や道具と一緒に頂いた言葉が「まんねん堂さんならいつか作ってくれるよね」でした。

まんねん堂は私の祖父の代から菓子卸業が本業で、菓子製造をおこなったことがありませんでした。もちろん技術も設備も場所もありません。

そんな、まんねん堂に大量の木型や道具と一緒に江戸前金花糖の存続が託されてしまった…という大きな重圧を感じました。

菓子一つ作るのにどれだけの技術、経験が必要かということ、道具の大切さも理解しています。金花糖作りを引き継ぐということが、一筋縄ではいかないのは重々承知しておりました。

奈良屋さんからの期待、金花糖の文化と歴史を守りたいという思い、いろいろな気持ちが交差したものでした。

金花糖の木型 金花糖の木型
まんねん堂が託された芸術品のような金花糖の木型

江戸前金花糖の復活を決意
一度やめたら、その技術も道具も菓子そのものの存在さえも、この世から消滅してしまうことがある…。

私は過去にも、伝統ある菓子が姿を消すのを見てきていました。

特に金花糖は全国でも数えるほどしか作られていません。特に東京の職人たちが作ってきた特徴的な愛くるしい小型の江戸前金花糖は他方にはないものでした。

そんな金花糖を「失われた文化」にするわけにはいきません。

今は技術も知識も経験もないけれど、しかし、いつか必ず江戸前金花糖を復活させ、その歴史を守ろうと心に決め、道具と共に伝統を引き継ぐとこと決心しました。

そして数年の準備期間を経て、まんねん堂の金花糖作りを行うために空調管理した仕事場を用意し、練習を重ね、やっと自信を持ってご提供できる金花糖が作れるようになりました。

江戸前金花糖の復活 江戸前金花糖の復活 江戸前金花糖の復活
練習を重ね、江戸前金花糖の復活

白くて薄く作るのが名人
金花糖は昔から「白くて薄く作るのが名人」と言われております。金花糖の白さは純白以上、透き通るほどの白さです。
それはまさに歌舞伎役者の白塗りが如く。

金花糖を白く作るためには、煮炊きの温度と撹拌する量のバランス、木型の状態、その日の天気、気温、湿度など、様々な要素が兼ねあって白くなっていきます。

これはマニュアルやレシピでは説明できない経験と勘が重要となる作業です。

まんねん堂では、その”白さ”を金花糖の誉れとし、多くの方に見て観賞して頂きたいと思っております。

すっきりとした素朴な甘さの金花糖は、菓子としての魅力はもちろんですが、1年以上飾っていただける美術品として、新たにご提案できるよう試行錯誤しております。

金花糖
透き通るような白
これが金花糖の誉れ
新しい金花糖の可能性を導きたい
長い歴史あるものを昔と同じように、現在も残していく